消された一家―北九州・連続監禁殺人事件を読んだ。

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

ネットなどでこの事件の片鱗は、ちょくちょく目にしていた。
日本犯罪史上5本の指に入ると言っても過言ではない事件だと思うのだが、その余りの
凄惨さゆえ、報道規制がなされ、世間一般での認知度はあまり高くないように思える。

但し、ネット上では事件当初から2ちゃんねるなどのスレッドで意見交換が隆盛に行われ、
それらを垣間見た片鱗でさえ、非常にインパクトの強い事件であった。
これは全貌を知っておかねばなるまいという、一種の使命感で読んでみることにした。
ネタバレが嫌な人はスル―ください。
これが中々にエグかった。
グロや猟奇的なものに対しては私はある程度耐性が備わっているので、その辺りに関してはたいしたことはないのだが、
家族で殺し合うという描写、特に子供が親を殺害する記述等に関しては胸が締め付けられる思いがした。
まさに【閲覧注意】な本である。
著者には悪いが、ある意味「有害指定図書」で、R指定を設けてもいいのではないか。そのくらいに残虐で惨たらしい。

著者がいうように、この主犯である松永太なる男は稀代の天才的殺人鬼である。
ただ、殺人鬼といっても、自分では一切手を下していないところに彼の鬼畜ぶりが窺える。

裏を返せば、絶対に自分では殺さず、とどめを刺さないという徹底ぶりで
それが彼の自負というか、「俺は殺人犯ではない」という絶対的なある種の既成事実でもって、
セーフティを保っており、傍から見れば、それは卑怯で狡猾に見えるものの、それこそが彼の
アイデンティティというか、殺人を犯したものたちと何も悪くない自分という構図を客観的に
作り出し、それが彼の優越感というかヒエラルキーの上層を形成するもののように感じた。
死体の証拠隠滅をさせる際には、何度も確認したりと、小心で臆病者の側面も持っているのも、
自分は何も関係ない、逆に巻き込まれた俺に迷惑をかけるな、という裏返しにすら感じるのである。

松永のやり口はまずターゲットに巧みな話術で近寄り、あることないことを織り交ぜ、不安に陥れる。
気がついたら松永に弱みを握られており、身動きが取れなくなる。
更にはまともに睡眠や食事を与えず、ことあるごとに「通電」(体にクリップを挟み電撃を加える)
という一種の拷問で、心身ともに衰弱させ、洗脳、支配下におくのである。中には衰弱しすぎて死亡したり、廃人になったりするものもいる。
松永の命令とあらば、殺人、更には死体の解体をも厭わない「人形」になっており、一種の思考停止状態に陥っているのである。
元警察官の男性でさえ、服従してしまうのである。
この男性の嫁、子供も松永の支配下に置かれてることから、家族同士の妙な連帯意識が生まれ、
もはや現実世界(世間一般)とは違う独自の精神世界がそこには形成され、自らの家族をも手にかけてしまったのだろうか。

いうなれば松永は殺人鬼、というよりかは詐欺師なのではないかと思う。それも天賦の才を持った詐欺師だ。
実際、学生時代から成績優秀で、弁論大会も優勝、セールスマン時代には自社ビルを建てるほど営業が上手く、
人心を掌握する術に天性のものがあると言える。
それをあろうことか犯罪に応用し、それが申し分のないほど、遺憾無く発揮されてしまった。
どのように生きたらこのような人間が形成されるのかという興味はあるが、生まれ持ったサイコパスでもなければ説明がつかないのではないだろうか。

この一家(親類)7人が殺し合ったという事実は一人の少女が逃げ出し発覚し、
裁判での供述が元になった本であるが、松永は真っ向から少女らの証言を否定
(家族同士の憎しみ合いが原因)しており、実際問題どうだったか分らないところではあるものの、
憎しみ合いで殺し合った方がまだ救われる・・・と思うのは私だけだろうか?

いずれにしろ少女が逃亡に成功していなかったら・・と思うと末恐ろしい。
恐らくこの事件は明るみに出ず、完全犯罪になってしまったのではないか、と思われる。
少女は1回目、祖父母宅に逃亡しているが、失敗しており、その時点で殺害しなかった、させなかったのは
松永は少女をなんだかんだ(使い勝手色々含め)気に入っていたのではないだろうか。
またもう1名、松永と20年共にした内縁の妻である女性も助かっているが、
松永の右手として確定的殺意でもって殺人を犯したなどの理由から、松永同様の死刑が確定している。

自分なら被害者と同じ立場にいたら絶対に逃げれる、だとか、隙を見て松永を倒せばいい、殺せばいい、
というように思う人も多いことだろうし、私も実際そうである。
ただ、結末を分っているからそう言えるのであり、実際に被害者らと同じ立場、状況におかれてしまったら、
それ(支配)は現在進行形で進んでいるわけであり、打開ができるとは軽々しく言えないのでは・・?
と思うところなのである。

被害者のご冥福をお祈りします。